乱反射する星籠建築・日詰明男




♪Bamboohenge No.5
(c)1996 Akio Hizume
(竹290本)


プロフィール

建築家 日詰明男(ひづめ あきお)


♪1983年ごろからフラクタルやカオスをはじめとする自己相似構造に関心を持ち、
  特に「準周期パターン」と称される数理と造形を通して独自の研究を続けてきた。
1990年以降には、平面と立体における新しい空間組織「星籠(ほしかご)
:Star Cage 」を相次いで発見し、国際会議や論文集で発表した。
この研究自体が独立した科学の一分野となりうるものだが、それにとどまらず、
私は同時に展覧会やワークショップなどを介して芸術の世界にも回路を開いている。
私はその経験から、新しい幾何学構造が子供や芸術家の感性にいかに根源的な
インパクトを与えるかを、何度となく目撃してきた。
私の幾何学的作品のほとんどは竹で作られている。これら一連の幾何学的な研究は、
軽くて強い「竹」のユニークな特性なしで決して実現しなかったであろう。
言わばこれは、竹文化の成熟した日本の風土でこそ成功した幾何学といっても
過言ではない。
私の造形は従来の基準からすると抽象彫刻に位置づけられるだろう。
しかし私自身は来るべき建築構造の有力なプロトタイプととらえている。
いずれ人はこの構造に則って家を作り、都市を形成し、
種々の道具をこしらえるだろう。
まだ未解決の問題も多く、幾何学と建築の両面から研究を続けなければならない。
近年は国内外において、公共彫刻として巨大な星籠を実験的に制作する
幸運に恵まれ、私自身の手で徐々に建築的規模にまで発展させることができた。
次なる挑戦としては、長さ5m程の竹を600本ほど使って、人間が星籠の内部に
自由に出入りできるものを、恒久彫刻として制作するつもりである。
現在その候補地を検討中である。
また私は平面・立体造形だけでなく、1次元空間の造形として“音楽”に関する
研究も並行して進めている。
すなわち、リズム、音階、音色、旋律に対して星籠と相同の構造を導入でき、
それを実際に演奏することによって独特の心理的な効果があることを確認した。
このように“音楽”と“空間造形”という一見全く異なる分野に、
幾何学的な関係性を引くことによって、全く新しい音楽の形式が発見された。
そればかりか音楽から建築へのフィードバックまでもが起こりうる。
例えばそのリズムを階段のパターンとして表現し、私は1997年に
公共彫刻「DEMOCRACY STEPS 」をオハイオ州立公園の景観を舞台に
徹底的に展開した。
その彫刻の上を歩くことによって、誰もがその快いリズムを楽しみ、
身体的な効果を確認することができる。
一般に、私たちは建築や音楽によって幾何学を身体的に理解するといえる。
音楽と建築がここまで意識的に関係づけられたことはあまり無いのではなかろうか。

 周知のように、近代では科学者の暴走が多くの悲劇を生み、
ますますその倫理観が問われてきている。
一方で芸術家は現実との関係を絶ったところで自由を乱用している。
そして両者は互いに無関心であるか敵対しているかのどちらかである。
私は確信するが、竹の生態と新しい幾何学、そして建築的展望が、
この芸術と科学の乖離を解消し、無理のない自然体へと再統合してゆくだろう。
多様な、しかし一貫して透明な表現の仕方によって、
科学と芸術の失われた関係を取り戻すことも私の役目だと思っている。
 長期的に見て私の活動は、過度に専門分化された在来の範疇を、
幾何学を軸に統合していくものとなるだろう。
思えば“時代精神”を作品の中でエレガントに統合することは、
本来建築の重要な機能の一つであった。
その意味で私の活動はきわめて建築的であると自覚している。



<好きな作曲家・アーティスト>

バッハ、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ
ストラビンスキー、ロジャー・イーノ、民族音楽


<好きな曲>


シュリ・キャメル(ライリー)、テヒリム(ライヒ)、
春の祭典(ストラビンスキー)、Recalling Mirror(R.イーノ)





♪星籠の内部にドームをこしらえ、人が中に入った。(内部からの撮影)
複雑な陰影の中にも、高次元幾何学の厳密な法則がある。
この構造は光だけでなく音も乱反射する。
つまりドームであるにもかかわらずあまり音が響かない。
私はこれを「音響的ホワイトアウト」と呼んでいる。





♪バンブー・プレアデス・ランプ
Bamboo Pleiades Lamp
(c)1995 Akio Hizume (Patent Pending)

※星籠内部に設置





♪君はプレアデスの鎖を結ぶことができるか。(Job 38-31)
 
冬空に青白くひっそりと輝く若い星星の群れ。
プレアデス星団はギリシャ神話や旧約にも見え、非常に古くから親しまれてきた
星座である。
おそらく古代エジプトやエチオピアの文献にも登場することであろう。
肉眼では6つの星が集まって見えることから、日本では「むつらぼし」あるいは
「すばる(結ばるの意)」と呼ばれ、平安のころにその記述があると言う。
しかしオリオンや大熊座に比べてはるかに目立たないこの星団が、
なぜこれほどまでに注目されたのか。
私は子どものころ、冴えわたる冬の夜空にひっそりと、しかし希望に満ちた
輝きで寄り添うすがたに、まだその名前を知らぬうちから深い愛着をおぼえた。
人ははかない輝きゆえに憧れる、プレアデスは文字通りの
「希望」そのものに思えた。

この竹で作られた作品「プレアデス」は、
6つの五芒星が互いに鎖のように絡まり、一体となっている。
 この立体はたやすく平面状に折り畳むことができる。
この平らな星を、回転させつつ、手裏剣のように放り投げる。
そして壁や天井にぶつかって衝撃を受けると、
一瞬にして3次元のエレガントな対称をとりもどし、床の上ではずむ。
覆水盆に返るわけである。
プレアデスの中心に電球を埋め込み、ランプシェイドとして使った場合、
不思議にも影を周囲に投影しない。
また電球を入れたまま6階の高さからコンクリートの地面に落
としても、フィラメントが切れなかった。
これは予期せぬ効果であった。



<略 歴>

1960年    長野県に生まれる
1987年    京都工芸繊維大学建築学科卒業
1990年 7月 建築図案集「GOETHEANUM 3」発表
      8月 2次元準周期組織「五勾(ごまがり)」を発表
      9月 私家版「生命と建築」出版
1993年 1月 3次元準周期組織「六勾(むまがり)」を発見
         「サイエンティフィック・アートの世界」(理化学研究所、和光市)
         に出品
     12月 論文「星籠」発表(形の文化誌、工作舎)
1994年 8月 準周期公共彫刻「BAMBOOHENGE 」(埼玉県秩父郡吉田町) 制作
     10月 「眼の宇宙−かたちをめぐる冒険」(兵庫県立近代美術館) に出品
     12月 論文「黄金の音楽構想」を発表(形の文化誌、工作舎)
1995年 3月 公共彫刻「民主主義の階段」制作(埼玉県秩父郡吉田町)
      6月 第4回国際竹会議(インドネシア、バリ島ウブド) にて
         インスタレーション制作
      8月 ISIS国際会議(ワシントンD.C)で音楽作品
         「FIBONACCI KECAK 」を発表
      9月 公共彫刻「BAMBOOHENGE No.2」制作
         (オーストリア、ワッテンズ)
     11月 「BUCKY FULLER Centenial Exhibit」
         (ニューヨーク、聖ヨハネ聖堂)に出品
1996年 6月 「Building for the Future 」
         (イスタンブール、絵画彫刻館) に出品
1997年 3月 グループ展「変容する多面体」開催(中野・無寸草ギャラリー)
      9月 個展「STAR CAGE:PENTAGONAL DIVERSITY」
         (オハイオ州オハイオ大学 The Wilkes' Gallery)
     10月 準周期公共彫刻「DEMOCRACY STEPS FOR CEDAR FALLS 」制作
         (オハイオ州立公園)
          個展「STAR CAGE 」(バーモント州カスルトン大学
         The Christine Price Gallery)

♪また、以上の活動に付随して、あるいは単独に講演、
ワークショップを多数開催している。 





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